2026/09/21 17:48



はじめまして。


「峯の小屋」を運営しているminemotoと申します。


「峯の小屋」は、横浜と鎌倉の間、円海山のふもとの自然豊かな場所にある小さな染め小屋を拠点に、

草木染めを中心とした手染めのものづくりをしています。


今回は、私がテキスタイルの道へ進んだきっかけや、これまで布づくりを学び、さまざまな職人の方々と仕事をしてきた中で、

なぜ伝統的な染織技術や素材を大切にしているのかについて、少しお話ししたいと思います。


幼い頃の布との出会いから、イギリス留学、日本の染織を学んだ学生時代、そして繊維産地の職人の方々との仕事。

これまでの経験を振り返りながら、現在の「峯の小屋」でのものづくりにつながっている、私と布との歩みを綴ってみます。



布との出会い


私が布に興味を持ったきっかけは、幼い頃の記憶にあります。

小さい頃からベロア素材の洋服など、肌触りの良いものが好きでした。

ふわふわした素材の洋服を、ぬいぐるみのようにして寝ていたこともあります。

当時はもちろん、それが「テキスタイルへの興味」だとは思っていませんでした。

けれど今振り返ってみると、布の色や柄だけではなく、触れたときの感触や、

素材そのものが持っている風合いに惹かれていたのだと思います。

「自分でも、素材感を大切にした布をつくってみたい」

いつしかそんな気持ちが生まれ、テキスタイルの道へ進むようになりました。



イギリスで出会ったテキスタイル


高校を卒業した後は、誰も私のことを知らない土地で、新しい環境に身を置いてみたいという思いもあり、

イギリスへ留学しました。イギリスは、羊毛産業とともにテキスタイルデザインの文化が発展してきた国です。

そこで、英国の伝統的なデザインや、ファッション、インテリアなどに使われる布の加工技術を学びました。

それまで日本の中で当たり前のように見ていた布とはまた違う、素材や加工、

デザインに対する考え方に触れたことは、私にとってとても新鮮な経験でした。

そして、そんな留学生活の中で、今でも印象に残っている出来事があります。

ある日の染めの授業で、イギリス人のクラスメイトから、


「日本にはSHIBORIがあるよね?」


と、何気なく尋ねられました。

私は「絞り染め」という言葉は知っていました。

でも、そのとき初めて気づいたのです。

日本で何気なく目にしていた絞り染めや染織の技術について、自分はほとんど何も知らない、と。

日本にいるときには身近すぎて、その価値や背景について考えたことがありませんでした。

それが、日本を離れたことで初めて「日本には、こんなに長い時間をかけて受け継がれてきた染織の文化があるんだ」

と意識するようになりました。

この経験が、日本の染織技術や素材について、もっときちんと学びたいと思う大きなきっかけになりました。



一から学んだ日本の布づくり


イギリスから帰国した後は、日本の布づくりを一から学び直すため、山形の芸術大学のテキスタイルコースへ編入しました。

山形には、紅花をはじめとした自然素材を活かしたものづくりの文化が、古くから土地に根付いています。

大学では、綿花を種から育て、そこから糸をつくり、手織り機で布を織るところから学びました。

さらに、草木などから染料を抽出して染めたり、型染め、筒描き、絞り染めなど、さまざまな染織技法を使って布に模様を描いたり。

布ができあがるまでの工程を、できるだけ自分の手で経験しました。


素材を育てる。

糸をつくる。

織る。

染める。

模様をつくる。


それまで「布」として一つに見えていたものが、実はたくさんの工程と手仕事の積み重ねによってできていることを、身をもって知りました。

このときに身につけた知識や技術は、現在のものづくりをする上でも、自分の中に残り続けている大切な経験です。



職人の方々とつくる布


大学卒業後は、繊維商社でテキスタイルの企画・開発に携わりました。

仕事では、日本各地の繊維産地を訪れ、織りや染め、加工などに携わる職人の方々と一緒に布づくりをする機会がたくさんありました。

実際に産地へ足を運び、職人の方と話しながら布をつくる中で、学生時代とはまた違う視点から「ものづくり」を考えるようになりました。

一枚の布ができるまでには、糸をつくる人、織る人、染める人、加工する人など、たくさんの人が関わっています。

そこには、それぞれの職人が長い年月をかけて身につけてきた技術や経験があります。

効率だけでは残すことのできない技術。

機械では完全には再現できない、人の手による微妙な違い。

そして、その土地で長く受け継がれてきたものづくりの文化。

そうしたものに触れるたびに、布は単なる「素材」ではなく、その背景にある人や土地、

時間まで含めてひとつのものなのだと感じるようになりました。



なぜ、今「染め小屋」なのか


そうした経験を重ねる中で、現在は「峯の小屋」という小さな染め小屋を拠点に、草木染めを中心としたものづくりをしています。

古い炭焼き窯を改装したこの小さな小屋で、季節の植物や自然素材と向き合いながら、布を染めています。

藍、マリーゴールド、インドアカネ、桜、セイタカアワダチソウなど、その時期に出会える植物や染料を使い、

素材との相性や染め方を試しながら色をつくっています。

草木染めのおもしろいところは、同じ材料を使っても、毎回まったく同じ色にはならないことです。

植物の状態、季節、天候、水、布の素材、染液の状態。

さまざまな条件によって、少しずつ色や表情が変わります。

思っていた色とは違う色になったり、予想していなかった美しい色が生まれたり。

そうした偶然も含めて、一枚の布にその時だけの表情が残っていきます。

私は、その「完全にはコントロールできないところ」に、草木染めのおもしろさがあると思っています。



伝統をそのまま残すのではなく


私が伝統的な染織技術を大切にしているのは、昔ながらの方法をそのまま残したいから、というだけではありません。
長い時間をかけて受け継がれてきた技術には、素材を知り、自然と向き合い、
より良いものをつくるために積み重ねられてきた知恵があります。

それを知った上で、今の暮らしに合う形に変えていく。

昔の技術をそのまま再現するのではなく、今の自分だからできることと組み合わせながら、新しい布の表情をつくっていく。

それが、私がこれからも大切にしていきたいことです。

これまで学んできた染織の技術や、職人の方々と仕事をしてきた経験を、

自分自身のものづくりの中でも大切につないでいきたいと思っています。



草木に囲まれた染め小屋から


「峯の小屋」では、洋服やストールやハンカチ、衣類、バッグなど、

日々の暮らしの中で使っていただけるものを中心に制作しています。

植物が芽吹き、花が咲き、実をつけ、季節が移り変わっていく。

そんな自然の変化を感じながら、その時期だからこそ生まれる色を布に残していく。

それが、今の私が大切にしているものづくりです。

幼い頃、ただ「触り心地が好き」という理由で布に触れていたこと。

イギリスで日本の染織文化を初めて意識したこと。

山形で、素材から布をつくることを学んだこと。

そして、産地の職人の方々と一緒に布をつくってきたこと。

振り返ってみると、その一つひとつが今の「峯の小屋」につながっています。


これからも、植物や素材と向き合いながら、その時にしか生まれない色や表情を、一枚一枚の布に残していきたいと思います。

草木に囲まれた小さな染め小屋から、季節の手染めを。

布を通して、植物や素材、そしてものをつくる時間まで感じていただけたら嬉しいです。


これからも「峯の小屋」のものづくりを、どうぞよろしくお願いいたします。

峯の小屋  minemoto